114th Episode 『決意の旅立ち【Departure of determination】』

ニューヨークの時計
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強くなりたい

その日の夜、仕事を早めに切り上げたMiyuさんとオーナーKeiが二人並んでカウンターに座っている

洗い物をしながらちらちらと二人を見るNana

「もう、二人でそんなにじっと見ないで下さいよ」

言葉は無く、ただ、黙ってコーヒーの香りに包まれてゆっくりと味わっている

「何とか言ってくださいよぉ、そんなに怒らなくたって」

「怒っていませんよ」

「怒ってるじゃないですかぁ、何にもしゃべってくれないし」

「で?アメリカに行くのはいつなの?」

「来月の上旬には発とうと思っています」

「で?何しに行くの?」

「また、大学に戻ろうと思います、もっと設計の勉強もしたいし、それに」

「それに?」

オーナーKeiがMiyuさんの袖を引っ張って首を横に振るが、そのまま続ける

「もっと自分に自信が持てる様に、自分の道を自分で切り開ける様に強くなりたい」

「そう、で、アメリカに行って一人で頑張ればそうなれるって事?」

「少なくとも今の自分よりかは」

「つまりはこういう事ね?見えない将来に不安で弱虫な自分が嫌いでそこから抜け出したいって事ね?」

「ちょっと、Miyuさん、言い過ぎですわ、そこまで言わなくても」

「そうです」

「ん、わかった、じゃ、いいんじゃない?」

驚いた顔でMiyuさんを見つめるNana

「Miyuさん、ちょっと、いいんじゃないってどういう事ですの?」

「だってさ、これはNana自身の問題よ?本人にしかその解決方法は見つける事は出来ないわ、そうでしょう?それで、アメリカへ行ってもう一度、一人で頑張ってみるって言うなら、まぁ、いいんじゃないの?」

静かな空間に、カフェの壁時計が終わりの時刻を告げている

「そうですわね、Nanaの気持ちもわかりますわ、Shintaroさんは至れり尽くせりですからね、いや、それは幸せな事なんですのよ?それだけ、Nanaの事を想っているって事ですからね、でも、それでいいのかって自分はいつもShintaroさんに甘えて頼ってしまっている様に思えてしまうんでしょうね」

「ん、でもさ、Shintaro君だって、Nanaを守るために強くなろうとしたんじゃないかな?」

「はい、今回、Jinさんが現れて、鏡に閉じ込めた一件で、Shintaroさんの心の奥にある闇の中に入った時、感じたんです、深くて、冷たくて、悲しくてそんな世界だった、ずっと一人で戦って来たんだなって思った」

「そうね、あなたにはそれがわかるのよね」

「だからこそ、私もShintaroさんを支えられるくらい強くなりたいと思ったんです」

オーナーKeiは静かに頷いてNanaの手を取る

「オーナーとMiyuさんには、これからという時に逃げ出して行く様に見えるかもしれません」

「ふっ、この私達を見くびってもらっては困るわね、オーナーに言わせると、やっと一件、序の口が片付いたくらいらしいわ、それなら、今じゃないとって思ったんでしょう?」

ぱっと目を開き、顔を上げて「どうしてわかるんですか?」

「そりゃ、前世であなたの母親だった人と叔母だった人よ?当然でしょう」

「私、決心しても、ほんの少し不安な気持ちもあったんです、だけど、今、無くなりました、絶対、100倍強くなって来ます」

「Shintaroさんはどう思うかしら、Nanaの気持ちわかってくれるかしら」

「どの位の期間なのかわからないけど、Shintaro君が他の人に気持ちが行ってしまうって事もあるかもしれないわよ、それは、Nanaにも言える事だしね」

「そうですわね、今はお互いを信じる事だけですわ」

「この前、Sakiさんの話しを聞いてから、色々と自分でも考える事がありました、誰かの幸せのために何が出来るのか、もし、お互いの気持ちが離れてしまったとしても、私達が共に戦う同志である事には変わりありません」

「そうですわね、そこまでの覚悟が出来ているのなら、もう、何も言う事はありませんわね」

やっとNanaに笑顔が戻って来た、そして、綺麗な七色がゆらゆらと包んでいる

「まぁ、しっかりShintaro君と話しをしなさいね、Nanaがアメリカへ行った後のフォローはするけど、私達に出来る事はそうも無いわよ」

「はい」

「Shintaro君はモテるからねぇ~」

「それは当然ですわ、あれだけの人ですわよ?誰も放ってはおかないでしょう」

「もう、そんな不安がらせる様な事言いますか?普通、元母と元叔母なのに」

「あはは、だって本当の事でしょうに」

口を尖らせて横を向くNana

ドアベルが鳴り、眩しいシルバーの光を纏ったShintaroさんが入って来た

「賑やかですね?何の話しですか?」

「Shintaroさん、お疲れ様ですね」

「毎日、ご苦労様」

「さ、Nana、今日はもう帰りなさい、Miyuさん、私達も行きましょう、いつもの所へ」

「いいわね、行こうか」

「じゃ、鍵を掛けるから出て下さいな」

追い立てる様に荷物を持ち、立ち上がる二人に圧倒されるShintaroさんとNanaなのでした

cafe-kei's-squ
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